生物学用語
ここでは個人的に興味のある生物学用語(魚類)を簡単に記そうと思います。同じ用語でも論文(研究者)によって意味(定義)や式が多少異なることがありますので、論文の方をよく読んで下さい(私が勉強不足なところもあるので^^;)。
生殖腺重量指数 (gonado somatic index: GSI)
生殖腺体指数、生殖腺重量比など論文によって多少呼ばれ方が異なるが、「1個体の体重あたりに占める生殖腺の割合」を指す。魚類の生殖周期の推定や成熟度の指標に使われることが多い。計算式では100を掛けるので、パーセンテージとして扱える。HSIと関連がある魚種もいる。
GSI=生殖腺重量(g)/体重(g)×100
肥満度(Condition factor: CF, K condition factorはKと略されることから)
体重は全長の3乗に比例するという法則を用い、太っているか痩せているか、個体の健康度、餌の豊かさなどを推定するのに用いられる。
肥満度=体重(g) / 全長(cm)3×1000
生殖腺指数 (gonado index: GI)
熟度指数(gonad condition factor: KG)とも呼ばれる。「体重が体長の3乗に正比例する(体重(g)=全長(cm)3)」というアロメトリー式の法則に基づき、体重の計量が難しい大型魚種の生殖周期の推定や成熟度の指標に用いられることがある。意味的にはGSIと同じなので、GSIが使えるなら実際の体重に占める割合を求められるのでGSIの方を使った方が良い。
GI=生殖腺重量(g)/全長(cm)3×10000
生物学的最小形 (biological minimum size)
一定以上のGSIに達した個体や、吸水卵および排卵後濾胞を有する個体(組織切片や肉眼観察など)に基づいて推定される産卵可能な最小個体を指す。また、50%成熟(個体群の50%が成熟する全長(Y=0.5の時のXの値: TL50))からも推定される。
肝臓重量指数 (Hepato somatic Index: HSI)
「1個体の体重あたりに占める肝臓の割合」を指す。GSIと関連して、産卵期前に増加し、肝臓が蓄積した栄養分を生殖腺に送る形で、GSIの増加時にHSIが減少することがいくつかの魚種で知られていることから、成熟の指標として用いられることがある。計算式では100を掛けるので、パーセンテージとして扱える。
HSI=肝臓重量(g)/体重(g)×100
胃内容物重量指数 (stomach content index: SCI)
Fullness Index(FI)とも呼ばれる。摂餌強度を表す指標や、一日のうち、いつによく捕食しているかを推定するのに用いられる。
SCI=胃内容物重量(g)/体重(g)×100
空胃率 (Vacuity index: VI)
越冬、産卵などと関連して季節による捕食割合の推定に用いられる。
VI=空胃個体(n)/全個体数(n)×100
孕卵数 (batch fecundity: BF)
バッチ産卵数、抱卵数、一腹卵数、cluch size、number of eggsなどとも呼ばれる。「1匹の雌個体が有する卵巣内の吸水卵の数」を指す。サケなどと違い、通常の魚では産卵数(産み出した卵数)を計数するのは難しいので、その魚種の潜在的な産卵数を推定するために卵巣内の卵数を用いる。故に、孕卵数は産卵数とは異なる(産卵数は孕卵数より減少する場合がある)。孕卵数の推定方法はいくつかあるが、一般的に以下の重量法が広く用いられている。また、吸水卵の代わりに卵黄卵を計数して推定する場合もあるが、その場合はbatch fecundityではなく、annual fecundityという。
BF=サブサンプルの卵数(吸水卵)/サブサンプルの卵巣重量(g)×全体の卵巣重量(g)
重量法とは、卵巣全体から一部の組織片を取り出したサンプル(サブサンプル, g)の卵数を計数する。部位は前部、中部、後部の3部位(左右とも)でそれぞれ計数し、部位によって偏りがないかANOVAで検定をかけ、有意差がでなかったら平均してサブサンプルの卵数とし、サブサンプルの重量を全体の卵巣重量に換算して、サブサンプルの卵数を重量と対比させて卵巣全体の卵数を推定する方法である。一般的には吸水卵のみを計数するが、論文によってはその前段階の卵母細胞も含んで計数することがある。あるいは任意の卵径以上の卵母細胞(例えば0.5o以上)と指定して計数する。
相対孕卵数 (relative fecundity: RF)
体重1gあたりの孕卵数(eggs/g)を示す。卵巣1gあたりの孕卵数(eggs/g)を求める場合もある。
RF=孕卵数(BF)/体重(g) or 卵巣重量(g)
卵形成 (oogenesis)
研究者によって卵母細胞の成熟段階の定義は異なるが、おおまかに区分すると以下のようになる。卵巣の成熟段階の観察は、パラフィン薄切標本作成後、ヘマトキシリン・エオシン二重染色(HE染色)が一般的である。成熟段階の判定は、観察した卵母細胞の中で、最も成熟が進んだ卵母細胞をその個体の卵巣の成熟段階とすることが多い。同サイズの個体でも時期によって成熟段階は変わる。
卵原細胞(oogonium)の増殖期・・・減数分裂を開始した段階で卵母細胞と呼ばれるようになる。
染色仁期(chromatin nucleolus stage)・・・卵母細胞の細胞質はやや大きさを増す程度。細胞の大部分を占める核内には仁が1つ分布する。
周辺仁期(perinucleolus stage)・・・卵母細胞の細胞質は増大しヘマトキシリンで青紫色に濃染されるようになる。核は巨大化し、核内では核膜周辺に球形の仁が数個分布する。後期になると、ヘマトキシリンの染色性が低下し、仁も目立たなくなる。
卵黄胞期(yolk vesicle stage)=油球期(oil droplet stage)・・・魚種によってはこのステージを卵黄胞期または油球期と呼ぶ。細胞質のヘマトキシリンの染色性は著しく低下。核と卵母細胞周辺部の中間の細胞質中には空胞状を呈する。細胞質の外縁部に透明な卵黄胞が多数分布する。卵黄胞の出現と前後して油球(oil droplet)が現れる。油球は空胞状を呈し、卵黄胞と区別がつきにくい場合がある。またHE染色では卵黄胞も空胞状を呈す(PAS反応は+)。エオシンに染まる卵膜が形成される。
卵黄球期(yolk globule stage)・・・第一、二、三次卵黄球期(primary,
secondary, teritary yolk globule stage)によく分けられる。卵黄胞は卵母細胞の表層に一列に並び、表層胞になる。顆粒状の卵黄球(ヘマトキシリンに濃染)が細胞質に出現し始め、細胞質全体に充満する(卵黄胞を表層に追いやる)。卵膜が厚くなり、放射状の線が観察されるようになる。
核移動期(migratory nucleus stage)・・・油球が一つに融合し、核に隣接。核は卵母細胞の中心から縁辺部(動物極)に移動し、エオシンに好染する1つの卵黄塊となる。卵黄球が融合し、1つまたは数個の卵黄塊になる。油球も1つまたは数個になる。
成熟期(maturation stage)・・・完熟期、吸水期、ripe stageともいう。核膜が崩壊し、卵母細胞は半透明になる。排卵(ovulation)に先立って顕著な吸水が起こって吸水卵(hydrated oocytes)となる。肉眼観察では卵膜外表面に透明なゼラチン物質が確認され、卵膜近くに巨大な油球が見られる。
排卵後濾胞(postovulatory follicles; POF)・・・排卵すると、卵母細胞が濾胞組織から分離し、残った濾胞は収縮する。
※一般的には成熟期や排卵後濾胞を有する個体を最終成熟段階とするが、研究者によっては核移動期を含むこともある。
※卵黄胞期〜卵黄球期までを総称して卵黄形成期(vitellogenic(yolk)stage)と呼ぶこともある。
※ヘマトキシリンは核、軟骨組織、粘液などを青紫色に染める、エオシンは細胞質、結合組織、赤血球などを橙赤色に染める(青藍色に染まることもある)。
※卵母細胞の成熟段階を利用して、卵巣成熟度を定めると、卵黄胞期以下は未熟段階(immature phase)、卵黄球期は産卵移行段階(active mature phase)か産卵停止段階(inactive mature phase)、核移動期〜成熟期は最終成熟段階(final mature phase)、排卵後濾胞を有していると排卵終了段階(post-ovulated phase)と分けられ、未熟段階以外は成熟しているといえる。
【関連用語】核(nucleus)、仁(核小体nucleolus)、卵巣(ovary)、卵原細胞(oogonium,oogonia)、卵母細胞(oocyte)、細胞質(cytoplasm)、卵濾胞(ovarian follicle)、卵膜(chorion)、表層胞(cortical alvelus,alveoli)、卵黄顆粒(yolk granule)、放射帯(zona radiata)、thecal cell layer (莢膜細胞層)、granulosa cell layer(顆粒膜細胞)
発育段階 (development stage)
一般的に外部形態の発育状態から区分される。研究者によって定義は異なるが、ここでは岩井(2005)『魚学入門』を参考に誕生から死までおおまかに区分すると以下のようになる。
1.卵(受精卵 fertilized egg)・・・受精後から孵化までの発生過程の卵。一般的には発育段階に含まれない。
2.仔魚(larva)・・・幼生とも言う。孵化直後から卵黄を吸収し、各鰭が定数に達するまでの段階。
3.稚魚(juvenile)・・・形態はほぼ種の特徴を表わし他種と区別できるが、体の各部位は発現初期の段階。
4.若魚(young)・・・adolescentとも呼ぶ。形態は種の特徴を表わしているが、成魚とは異なり、二次性徴は現れていない段階。形態的特徴は発達中で、体の各部位の相対比は成魚と異なる。成長期。
5.未成魚(immature)・・・体の大きさや種の形態的特徴は成魚に近い(成魚とほとんど見分けがつきにくい場合もある)が、性的に未成熟で生殖能力が十分ではない段階。
6.成魚(adult)・・・体の大きさは十分に発達し、種の形態的特徴が明確で、生殖能力を有している段階。生物学的最小形以上のサイズは成魚。
7.老魚(senescent)・・・老成魚、senilityとも呼ぶ。生殖能力の衰え(孕卵数の減少)、コラーゲン安定性の増大など、形態は成魚より少し変わり、老年変形(斑紋や体の色が消失する、額が盛り上がるなど。イシダイなどでよく知られている)する段階。
※若魚と未成魚(時折、稚魚も)を総称して幼魚(juvenile or young)と呼ばれることが多い。
※仔魚から稚魚への形態変化が別種に見えるほど著しい場合を変態(metamorphosis)と呼ぶ。
※魚類は無限成長することから、以前は不老不死と考えられていたが、現在では他の生物と同じように魚類もすべて老化するものと考えられている。
一生と生命の繰り返し
魚類の一生をかなりおおまかに記す。
1.成魚の精巣(精原細胞→精子)、卵巣(卵原細胞→吸水卵)の発達
↓
2.受精卵の卵発生(2細胞期→胚体)
↓
3.個体の成長・成熟(孵化・仔魚→成魚・老魚)
↓
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DNA解析・遺伝的類縁関係・分子系統学的解析・集団系統解析
純塩基置換率・純塩基置換係数(net nucleotide sequence divergence, net nucleotide divergence)・・・値が高いほど遺伝的に離れている。
集団分化指数(pairwise Fixation Index, fixation index ; Fst)・・・複数の集団間の全体としての分化の程度を表わす。集団間の遺伝的距離を表わす。集団間の遺伝的分化の指標。理論上1から0の値を取り,1なら完全に異なる集団,0なら完全に同じ集団を意味する。さらに検定をP値で表わし、+なら棄却できる(=別集団(P<0.05))、−なら同一集団であることを棄却できない(P>0.05)、と+−で表に表わされることが多い。Fst→P値→+・−の順番
塩基多様度(nucleotide diversity)・・・
個体群(population)
生態学でいう「個体群(population)」は、遺伝学における「集団(population)」と同義で、ある一定範囲に生息する生物1種の個体の集まりを指す。
系群・系統群(subpopulation)
水産学でいう「系群・系統群(subpopulation)」は、分類学でいう「地域個体群(regional population)」に相当し、ある生物のまとまった遺伝集団を指す。また、「地方個体群(local populatoin)」もこれらと同義。通常、1つの種であっても、地域によって生態や形態が異なるいくつかの集団が存在するのが普通で、「種」→「亜種」→「地域個体群」と細分されることがある。
2012年3月21日作成
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