分類学用語メモ

 ここでは個人的に興味のある分類学用語(魚類)を簡単に記そうと思います。
 同じ用語でも論文(研究者)によって意味(定義)や式が多少異なることがありますので、論文の方をよく読んで下さい(私が勉強不足なところもあるので^^;)。
 ここではすべての内容をマンボウで例えて表現します。



【一般的知識】
学名 (英語 Scientific name, Binomial name ; ラテン語 binomen (複数形 binomina))
 生物1種1種につけられる世界共通の名前。
 学名は分類学の父≠ニ呼ばれるスウェーデンの研究者カール・フォン・リンネCarl von Linné(ラテン語 カロルス・リンナエウス Carolus Linnaeus)によって、1758年に「自然の体系 第10版 Systema Naturae 10th edition」で二名法が提唱された。
 新種として科学雑誌に掲載された論文は「原記載」と呼ばれる。
 学名は属名+種小名(二名法)で表わされる。

 例えばマンボウの学名 Mola mola の場合だと・・・ Mola(属名)+ mola(種小名)  もしくは Mola mola

 学名のルールとして、属名は頭文字だけ大文字、種小名はすべて小文字で表わす。
 また、学名はイタリック(斜体)で表わす(学名に下線を引けば斜体にしなくてもよい)。
 学名は名前が長い種があるため、論文中で2回目以降の登場は M. mola のように属名を略してもよい。


 命名者表記をする場合は以下のように示す。
 属名が変更されると、原記載者に()を付ける。

 マンボウの原記載 Tetraodon mola Linnaeus, 1758
 マンボウの現代表記 Mola mola (Linnaeus, 1758)


 Mola mola のように同じ単語が2回繰り返すことを、反復名(tautonym)と言う。
 反復名は動物では許容されているが、植物や菌類では許容されていない。


 しかし、2015年現在、マンボウは分類学的再検討が求められており、マンボウ属ではあるが、どの種か種小名がわかっていない状態にある。
 このような時は種小名に「sp.」を当てる(複数形は「spp.」)。

 マンボウ Mola sp. B
 ウシマンボウとマンボウ Mola spp. A-B


 学名の詳細なルールは国際動物命名規約に記述されている。





【タイプ標本に関する用語】
タイプ(type)
 タイプ標本、模式標本、基準標本などと呼ばれる。
 生物の分類学では「新種記載を行う時に、その生物を定義するための記述の拠り所となった標本や図解」のことで、必ずしもその生物の特徴をよく表わした典型的なものである必要はなく、規約の条件を満たせば、動物の歯1つでもタイプ標本になる。
 タイプ標本はいくつかの種類に分けられ、ここではメジャーなものを記す。

ホロタイプ (holotype)
 正基準標本、正模式標本などと呼ばれる。
 ある生物の基準となる世界で唯一の標本。
 複数標本が同時に新記載された場合は、1つのみホロタイプで、残りはすべてパラタイプになる。

パラタイプ (paratype)
 従基準標本などと呼ばれる。
 原記載で同時に記載されたホロタイプ以外の残りの複数標本。

シンタイプ (syntype)
 等価基準標本などと呼ばれる。
 原記載でホロタイプが指定されなかった場合(1つの標本を指さず、複数標本に基づく時)、その論文中で引用された全ての標本がこれにあたる。

レクトタイプ (lectotype)
 選定基準標本などと呼ばれる。
 原記載でホロタイプが指定されなかった場合や失われた場合、ホロタイプに2種以上の生物が混じっていた場合、後の研究者がシンタイプの中から新たに指定した標本(価値的にはホロタイプと同等)。

パラレクトタイプ (paralectotype)
 選定基準標本などと呼ばれる。
 シンタイプの中からレクトタイプを選出した残りの複数標本(価値的にはパラタイプと同等)。

ネオタイプ (neotype)
 新基準標本などと呼ばれる。
 原記載に記されているタイプ標本すべてが失われた場合、学名を担う基準となる標本がないと未記載種が得られた時に、新種がどうかの判断が難しいことから、ネオタイプ(価値的にはホロタイプと同じ)を指定することができる。
 ネオタイプの条件は、タイプ標本の得られた産地の同種の標本、種の形態的特徴が明確な(できれば成魚)状態の良い標本である。
 ネオタイプの指定は新たに得られたものでいいが、ただし、レクトタイプになる可能性があるタイプが残っている場合は、新たにレクトタイプを選び出す作業が優先される。


≪参照サイト≫

タイプ標本について
タイプ標本とは?
タイプ (分類学) - Wikipedia




【学名に関する用語】
裸名(ラテン語 nomen nudum (複数形nomina nuda);英語doubtful name)
 疑問名、擬名とも言う。
 記載が不十分であるために学名として認められなかった名称(正確にどの種を指しているのかわからない学名)。
 裸名は動物命名法のルールでは「不適格 unavailable」にあたる。

☆学名の名称の中には、「適格名available name」、「不適格名unavailable name」、「有効名valid name」、「無効名invalid name」などの種類がある。詳細は国際動物命名規約を参照。





【シノニムとホモ二ム】
シノニム(synonym)
 同物異名とも呼ぶ。
 論文中には、省略して「Syn.」と示すこともある。
 ある生物の学名があるが、同じ種なのに別の学名を与えられていた時、お互いにシノニム関係にある。
 この時、先につけられた(公表日が早い)名前=古参異名(シニア・シノニム senior synonym)、後につけられた(公表日が遅い)名前=新参異名(ジュニア・シノニムjunior synonym)という。

 例えば、マンボウの例で表わすと・・・(以下すべて同種とされている)

 Tetraodon mola Linnaeus, 1758
 Mola aculeata Koelreuter, 1766
 Diodon mola Pallas, 1770

 Tetraodon molaは、Mola aculeataDiodon molaのシニア・シノニム。
 逆に言うなれば、Mola aculeataDiodon molaは、Tetraodon molaジュニア・シノニム。
 また、Mola aculeataTetraodon molaのジュニア・シノニムであるが、Diodon molaのシニア・シノニムとなる。

ホモニム(homonym)
 異物同名とも呼ぶ。
 ある別々の生物が同じ学名で被った時、ホモニム関係にある。
 この場合、古い方が優先され、新しい方は新たに別の学名を付けなければならない。


≪参照サイト≫

トリケラトプスは残る/恐竜の学名
学名における異名とは




 2015年3月31日作成 


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