イサキを使ったカニュレーション実践

 魚類は外見的に雌雄を見分けられない種が多いです。
 水族館でも雌雄がわからないまま、とりあえず水槽で飼っている状態の魚種はたくさんいます。
 繁殖させたいと思っても雌雄がわからなければ難しい。
 ある程度大きくなった魚であれば、解剖して生殖腺を確認すれば雌雄を判別することはできますが、魚は死んでしまうので、生きたまま雌雄を判別する他の技術が必要です。
 生きたまま雌雄を判別する方法として、遺伝子を使う方法などがありますが、お金や実験施設が必要になります。

 他に、魚を生きたまま雌雄を判別する方法として、養殖の現場で使われているカニュレーション(cannulation)という手法があります。
 カニュレーションとは、例えば、栗田(2006)の図3にあるような感じで、ある程度大きくなった魚の生殖孔にカニューラ(cannula)を挿入し、生殖細胞を吸い出す方法です。
 しかし、ネットでいろいろ探しても具体的な詳しいやり方が見付からなかったので、試行錯誤で実践してみました!


1.用意したのは、食鮮館タイヨーで400円くらいで売られていたイサキの魚体全身(全長26.3p 標準体長20.3p)。



2.生殖細胞をうまく吸い出したかったので、鮮魚コーナーで生殖孔を見て卵が見えているもの(お腹が明らかに膨らんでいて成熟度が高そうなもの)を選びました。
 生殖孔の開き具合は4mmでした。
 生殖孔は肛門のすぐ後ろにある孔なので、間違えないよう注意が必要です。



3.魚は用意できたので、次は吸い出す道具カニューラの準備です。
 何ががいいのかよくわからなかったので、いろいろ買ってみました。
 @ アマゾンで購入した「kitamurasyokai プラスチック シリンジ 注射器 150ml」(1500円)という商品。
 ビニールチューブは外径5o、内径4mmでした。



 A100均(ダイソー)で売っていた「おもしろ注射器 60ml」(100円)と、「極細チュウチュウストロー(ポリエチレン製)」(100円)。
 極細チュウチュウストローは直径1.8o、内径1oでした。


 Bホームアシスト(ホームセンター)で売っていた「シリンジ 10ml」(135円)と、「スリムチューブ(ジョイント(アダプター)付き) 塩化ビニール製」(198円)。
 スリムチューブは外径3mm、内径2mmでした。



4.イサキの生殖孔が4mmだったので、シリンジ150mlのセットは外径がきつそうだったので止めておきました。
 代わりに、「スリムチューブ+ジョイント」と「おもしろ注射器 60ml」、「シリンジ 10ml」を組み合わせてみることにしました。
 「スリムチューブ」のジョイントは素晴らしく、「おもしろ注射器 60ml」と「シリンジ 10ml」の両方とも組み合わせることができました。(ジョイントはちょうど良いのを探すのが大変)



チューブが長すぎるので、30pの長さに切って、まずは「スリムチューブ」と「シリンジ 10ml」の組み合わせをカニューラ完成形として、早速イサキの生殖孔に挿入してみることに(この時、注射器は完全に空気を抜いた状態でないと吸い出せません)。


5.小さな魚の割には生殖孔からチューブが結構ぐいぐい入って驚きました。
 どこまで入れたら吸い出せるのかわからず、入る所まで入れてみると、17pくらいチューブが入りました。



6.もう生殖腺の中に十分に入っただろうと思い、注射器を引いてみると・・・
 引いた分だけ吸い出せると思っていたイメージとは異なり、結構圧力がかかっていて、注射器の引いた手を緩めるとすぐに注射器の引いた部分が0に戻ってしまいます。
 引いた状態で、挿入したチューブの方を慎重に引いてみると・・・チューブの中に卵母細胞が見事に吸い出されました!



7.注射器を押して、吸い出した卵母細胞を取り出しました。

 実体顕微鏡で見てみると、いろんな大きさの卵母細胞があることがわかります。

 イサキの成熟に関する研究例を見ると、成熟卵の卵径は1mm以下のようです。
 また一般的な魚類の卵径も2mm以下が多いようなので(ヤリマンボウは1.8oらしい)、内径2mmくらいあれば、大抵の魚の生殖細胞はカニュレーションできる思います。

8.イサキは最大卵径が1mm以下なので、極細チュウチュウストローでも吸い出すことができました。

 注射器が無い場合は、チューブだけ持っていれば、生殖孔にチューブを挿入して、口で吸えば、生殖細胞を吸い出すことができます。
 しかし、口の場合、吸ってから吸い口を指で密閉してから、挿入しているチューブを引いた方がいいです。
 口で吸った状態で挿入しているチューブを引くと、生臭い生殖細胞の味がそのまま口まで伝わってきます。
 シリンジ60mlでもできましたが、大きいと引くのに力が必要なのと、吸い出しの勢いが強くなるので、魚体へのダメージが大きそうです。
 結論としては、「シリンジ 10ml」と「スリムチューブ」がホームセンターで買えて、300円で安価ですし、カニュレーションとして最強の組み合わせでした。

9.最後に、解剖して、生殖腺にチューブが実際どのように挿入されているのかを見てみました(この後、イサキは料理しておいしく頂きました)。
 このイサキは十分に生殖腺が発達していると思われます。
 この写真を見れば、他の魚でもカニュレーションする時のイメージが湧きやすいですね。

 今回は魚屋で売られている死んだ個体で感覚を掴んだので、生きている魚でも試してみたいですね。

 今回のカニュレーションの様子を動画で見たい方は、全体拡大口での吸い出しを参照してください。 <追加>
 再びタイヨーに行ったら、前回よりも小さなイサキの個体がまとめ売りされていたので、これでもできるか挑戦してみました。

 結果として、標準体長と性別は上から順に、 14.5 cm オス 生殖腺白濁
14.5 cm メス 生殖腺透明
14.7 cm メス 生殖腺透明
14.8 cm メス 生殖腺透明
15.8 cm メス 生殖腺胞黄色
13.9 cm メス 生殖腺透明
 それぞれ生殖孔は2mm前後で、前回使ったスリムチューブが入らなかったので、極細チュウチュウストローで試すと、見事全個体、生殖細胞を口で吸い出すことができました。  解剖して雄と確かめるまで性はわからなかったのですが、雄の生殖腺に直接ストローを入れて、吸い出してみたところ、ちゃんと精細胞も吸い出しができたので、雄も雌も可能であることを確かめました。

 ↓ 14.5 cm オスの精巣の写真。精巣は白濁している。
 




 2018年5月26日作成 


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