マンボウとウシマンボウとカクレマンボウ
****************************************************************
【速報&注意】日本魚類学会の「日本産魚類の追加種リスト(2013年2月26日付け)」にウシマンボウMola sp.AとマンボウMola sp.Bが追加されました!
また「日本産魚類検索 第三版 全種の同定」にも同様にウシマンボウとマンボウが別種として記載されています。
なお、それに伴って注意されたいのは、外部形態からマンボウ属2種を識別できるのは全長1.8m以上です(頭部の隆起で識別する場合は2m後半以上じゃないと難しいです)。
日本近海ではウシマンボウの小型個体が今のところ見付かっていません。
日本近海の全長1m以下の個体はDNA解析の結果、すべてマンボウでしたので、今のところマンボウと考えて頂いて良いかと思われます。
2013年3月21日 →2018年1月3日
****************************************************************
前回、マンボウ科魚類の仲間について簡単に紹介しましたが、ここでは日本近海に出現するマンボウ属魚類について少し詳しく紹介しようと思います。
一般的に水族館で目にする「マンボウ」はマンボウ属に属する種類です(ごく稀にヤリマンボウが展示されることもありますが、飼育が難しく、長期間展示できないようです。しっぽが突き出ているヤリマンボウを水族館で見られた方は超ラッキーです)。
マンボウ属はマンボウの仲間の中で一番よく漁獲される種類ですが、これは日本だけに限らず、世界的に見ても同様の傾向があるようです。
なので、過去には世界各地で、変なの獲れた! 新種だ! と論文が出された結果、30種以上になったこともあります(Parenti, 2003)。
しかし、Fraser-Brunner(1951)によって、30種以上提唱されたマンボウ属は、こいつとこいつは一緒だろ、と情報が整理され、マンボウ Mola mola とゴウシュウマンボウ Mola ramsayi の2種に絞られました。2種のうち、ゴウシュウマンボウは南半球にしか分布しないため、日本近海にはマンボウ1種のみが出現することになります。
Fraser-Brunner(1951)が情報整理したことにより、その後はマンボウ属2種で安定していたのですが・・・ゴウシュウマンボウに関する情報は少なく、本当に存在するかどうかは不明確な点が多く残されていました。
そんな折、Bass et al.(2005)が世界各地からマンボウ属を集め、遺伝解析を行いました。その結果、マンボウ属は2つの大きな集団に分かれることが明らかになりました。
やっぱりゴウシュウマンボウはいるのではないか? そんな期待が高まる中、Yoshita et al.(2009)が独自に集めたサンプルとBass et al.(2005)のデータを解析し直した結果、世界に分布するマンボウ属は3つの大きな集団に分かれ、それぞれの遺伝的距離は別種レベルに離れているということを明らかにしました。この遺伝的に分けられたマンボウ属3種を仮にMola spp.A-Cと名付けました(正確には論文中にはGroups A-C。Mola spp.A-Cと最初に呼んだのは澤井ら(2009))。
ここまでの話の流れを簡単にまとめると、以下の図のようになります(上記の説明よりもう少し詳しく書いています)。
管理人はYoshita et al.(2009)の研究を受け継ぎ、研究を行っています。
さて、ここで登場した、このサイトの名前でもあるウシマンボウ。
ウシマンボウとは何者なのか? これについてここから説明しようと思います。
Bass et al.(2005)によって、マンボウ属に2つの大きな集団の存在が明らかになった同年、偶然にも、相良ら(2005)が日本近海に出現するマンボウ属魚類について、Bass et al.(2005)と同じ方法で遺伝解析を行っていました。
すでにお話したように、ゴウシュウマンボウは南半球に分布する種とされていたので、日本近海に出現するマンボウ属はマンボウ1種と考えられてきました(e.g., Hatooka, 2002)。しかし、相良ら(2005)の発表により、日本近海に出現するマンボウ属は大きく2つの集団に分かれることが示唆されました。吉田ら(2005)は相良ら(2005)で示唆された2集団を仮に、A群、B群と名付けました。
相良ら(2005)・吉田ら(2005)の後、少し上でお話ししたYoshita et al.(2009)によって、日本近海に出現するマンボウ属2群は、遺伝的距離がそれぞれ種レベルで離れていることがわかったため、マンボウA種、B種と呼び名が変わりました。
しかし、A種、B種という呼び名では呼びにくいため、学名の決定はまだにしろ、日本においてはそれぞれに和名を付けて呼び分けようということで、A種をウシマンボウ(新称)、B種をマンボウという名前が付けられました(山野上ら,2010)。A種にウシマンボウという新和名を付けた理由は、Yoshita et al.(2009)の研究により、B種の形態的特徴が一般的にマンボウと呼ばれている種の特徴に近いという結果が発表されていたので(形態的特徴については他の記事で紹介します)、B種にはマンボウという名前を割り当て、A種にはそれ以外の名前を付けようということで名付けられました。ウシマンボウの由来は、東北の漁師が2種を識別していた地方名の中から採用されました。
日本近海のマンボウ属の流れをまとめますと、以下の図のようになります。
以上のように、ウシマンボウは2010年に名前が付けられたまだまだ新しい種類のマンボウ属の仲間なのです。
しかし世界は広い。マンボウ属の種類が3種以上いる可能性は十分にあります。またヤリマンボウ属やクサビフグ属の中についても複数種いる可能性は十分にあり得る話で、マンボウ類はまだまだ謎の多い魚なのです。
と前回ここまで書きましたが、マンボウとウシマンボウ、両種が一体どんな形をしているのかは触れていませんでしたね。
安延(2011)で両種の形態を記した図が出版されたので、こちらでも紹介したいと思います。はい、下記の図が両種の典型的な形態を表わした図です。左がウシマンボウ、右がマンボウ。違いがわかりますか? パッと見たらどちらも同じマンボウ≠ノ見えるのですが、よ〜〜〜く見ると形が違います。黒矢印にあるところに注目して下さい。ウシマンボウは頭部が隆起し、舵鰭の波型はほとんどみられない一方、マンボウは頭部が隆起せず、舵鰭に明瞭な波型を持つことがわかります。しかし、両種の種の特徴を表わしている識別できる体サイズは2m以上に限られます。なぜなら、ウシマンボウの小型個体が日本近海では漁獲されないため、どんな姿をしているかわからないのです。
ちなみに、遺伝的裏付けのあるマンボウの世界最大個体は全長277p、ウシマンボウの世界最大個体は全長332pです(吉田ら,2005;Yoshita et al., 2009;安延,2011)。
追記@
日本近海のマンボウ属2種は遺伝的にも形態的にも異なります。さらに、生態的にも異なることがわかってきました!!
澤井ら(2011)によると、三陸地方に出現するマンボウ属2種の出現状況を比較した結果、マンボウは調査期間、雌雄ともに様々なサイズが出現したのですが、ウシマンボウは7〜8月のみに全長2m以上の♀個体のみが出現した、と出現状況が異なることが報告されています。
また、両種の出現水温も異なり、ウシマンボウは16.8〜25.6℃の表層水温に出現した一方、マンボウは11.5〜25.6℃の表層水温に出現したそうです。両種は検定でも有意差があり、ウシマンボウの方がマンボウより出現水温が高いことが報告されています。
ウシマンボウとマンボウは生態的にも異なり、やはり別種だったということが濃厚になってきましたね。他にはどんな違いがあるのか、気になりますね。
****************************************************************
時は過ぎ去り、Yoshita et al. (2009)から8年後の2017年7月19日「Nyegaard M, Sawai E, Gemmell N, Gillum J, Loneragan NR, Yamanoue Y, Stewart A. 2017. Hiding in broad daylight: molecular and morphological data reveal a new ocean sunfish species (Tetraodontiformes: Molidae) that has eluded recognition. Zoological Journal of the Linnean Society」という論文が発表されました。
何を隠そう、これは2017年時点で125年ぶりのマンボウ属3番目の新種の発表です!(マンボウ属の新種として発表された最後の種Orthagoriscus eurypterus Philippi, 1892が125年前だから)
新種と判明したのは、何となくそんな気がしていたC種。C種は学名Mola tecta 和名カクレマンボウと命名されました。「カクレ」の語源は、カクレクマノミなどの何かの物に隠れるという習性的な隠れの意味ではなく、「これまで分類学者の目を欺き他のマンボウ類に紛れて隠れてきた」という意味で、ラテン語のtecta(隠れるの意)に由来し、英名では人を欺くという意味合いの「Hoodwinker sunfish」が付けられました。
カクレマンボウの分布域は南半球。今のところ日本を含む北半球では確認されていません。
カクレマンボウの最大個体は全長242p。
カクレマンボウの大きな外観的な特徴は、舵鰭が真ん中だけ1つ凹み、その凹みに向かって、帯がまっすぐ延びることです。この帯を「後延帯(smooth band back-fold)」とでも名付けましょうか。後延帯が明瞭なのがカクレマンボウの特徴ですが、ウシマンボウやマンボウの中には極稀に後延帯を持っている個体がいるので注意が必要です。
ここまでの分類の研究の流れをまとめると、マンボウとウシマンボウとカクレマンボウの学名は以下のようになります。マンボウとウシマンボウの学名は「(仮)」状態なので、さらなる調査が必要です。
****************************************************************
カクレマンボウの新種記載から5ヵ月後の2017年12月5日「Sawai E, Yamanoue Y, Nyegaard M, Sakai Y. 2018. Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae). Ichthyological Research」という論文が発表されました(というか管理人が出しました)。
この論文でようやく未解決だったウシマンボウとマンボウの学名が特定されました。
ウシマンボウの学名はMola alexandrini、マンボウの学名はMola molaになりました。これでYoshita et al. (2009) が示唆した遺伝的に分かれたマンボウ属3種すべてに学名が付いたことになります。しかし、マンボウは太平洋と大西洋で集団が分かれることが示唆されており(現時点では種レベルに相当するかは不明)、今後、地理的に分かれるこの2集団がそれぞれ別種と判断されることになれば、マンボウの学名はまた変更されるでしょう。今まで捕獲されていない新種がいる可能性もありますし、大枠は決着がついたものの、まだまだマンボウ属の分類は研究の余地があります。
しかし、これまで認知されている3種は遺伝的・形態的・生態的に異なることが示唆されているので、これら3種が存在することは揺るぎない事実です。この論文はマンボウ属だけでなく、マンボウ科全体(カクレマンボウ含んで56種)の学名を再検討して、ウシマンボウとマンボウの学名を特定した大作で、Nyegaard et al. (2017)も包括して、今後のマンボウ属の分類の新たな指標となることが期待されます。Fraser-Brunner(1951)から止まっていたマンボウ属の分類の歴史を大きく動かしたのです。
マンボウ属は複数種が混同されMola molaという1種の学名が割り当てられてきた長い歴史があり(時にはヤリマンボウ属も混同された)、遺伝的に確認されていない過去の論文は複数種が混同されている可能性を拭えません。これから新たに出る論文も過去の文献の見直しと共に再検討していく必要があります。これが形態情報が載っていない論文は判断が付かないから大変・・・。
Sawai et al. (2018)ではマンボウ属の分類に関して、以下の重要な要素が示されています。
・ウシマンボウにはOrthragoriscus ramsayi Giglioli 1883(ゴウシュウマンボウ)とPseudomola lassarati Cadenat 1959(和名なしでヤリマンボウのシノニムとされてきた)の2つのシノニムがある。
・今まで見付からなかったウシマンボウの雄は雌と外観的に区別がつかない(生殖腺は違う)。
・ウシマンボウは北半球も南半球も太平洋もインド洋も大西洋も世界中に出現する。
・世界中にいると考えられていたマンボウは遺伝的側面からインド洋では未確認。
・ウシマンボウもマンボウも成長と共に形態変化して種の特徴が出てくるが、小型個体は酷似していて見分けが難しい(カクレマンボウも)。
・マンボウはリンネが文献に基づいて記載したので、実物の標本を見ていない=ホロタイプが存在しない。しかも、マンボウ属(マンボウとウシマンボウ)とクサビフグを混同して記載=本来ならMola molaの学名は無効になるが、あまりにも有名過ぎる名前で学名変更すると大きな混乱を招くこと、タイプ産地ではウシマンボウやクサビフグよりマンボウが多くいること(多くの研究者がマンボウの形態にMola molaという学名を当てはめていることも考慮して)から、マンボウにこの学名を当てるのが妥当であると判断した。
・マンボウのタイプ標本が無いことから、新たにネオタイプ(マンボウのシノニムとされ現存していたOzodura orsiniのタイプ標本がマンボウと同じタイプ産地だったので指定)を指定。
・ウシマンボウとゴウシュウマンボウ(英名southern ocean sunfish)の重複した和名をウシマンボウに統一(southern ocean sunfishの英名が最早北半球にも出現してsouthernの意味ないし英名を変える必要があると指摘されていることを受け、オーストラリアを意味する「ゴウシュウ」もタイプ産地でも分布が限られているわけでもないので、形態的特徴を示すウシマンボウの方を選択)。
・ウシマンボウもマンボウもタイプ産地はアドリア海で、両種のタイプ標本はボローニャ大学動物学博物館zoology museum of the university of Bolognaに保管されている(標本番号が付いていないのは、博物館から古い標本は博物館のルールで標本番号が付けられないと言われたため。何回も標本番号を付けるように催促したがダメだった。しかし、両種のタイプ標本は分かりやすい場所に保管されているので他の標本と混同されることはない)。
・世界最重量硬骨魚はこれまでマンボウとされてきて、ギネス世界記録にも登録されているが、実は誤同定であり、実際の世界最重量硬骨魚はウシマンボウ。
頭が痛くなってきたところで、マンボウ属3種の外観的な見分け方を紹介します。特に重要なのは「鱗の形状」(ただし全長70p以上がわかりやすい。小さ過ぎる個体は鱗も未発達で難しい)。タイプ標本で種を同定する時の決め手も鱗の形状でした。
初代研究歴 2001−2003年(卒論+修論)
二代目研究歴 2004−2006年(卒論+修論)
管理人研究歴 2007〜現在(修論+博論→ライフワーク)
と、バトンタッチしながら2017年時点で16年続いてきた研究でようやくウシマンボウの学名を特定できたのは感無量です。
一応、マンボウ属3種の学名に関しては決着が付きましたが、マンボウ属が混同されている実情に気付かれたことで、マンボウ属の分類学的再検討がさらに行われることに期待します。
****************************************************************
ウシマンボウの学名はしばらく落ち着くと思われたのですが……早くもBritz (2022)によって疑義が提唱されました。
Britz (2022)の疑義は以下のとおりです。
・Sawai et al. (2018)はRanzani (1839)が新種記載した2種のタイプ標本(Orthragoriscus alexandrini=ウシマンボウのホロタイプ;Ozodura orsini=マンボウのネオタイプ)の全長をイギリスの帝国単位(English units)と解釈して、メートル法(国際単位)に変換したが、当時はヨーロッパ各国各地方によって測定単位は大きく異なっており、記載された場所であるイタリアやボローニャ地方の測定単位でメートル法で変換すると、「原記載の全長」と「2種のタイプ標本の全長の実測値」が大きくズレる。比較すると以下のようになる。
Ranzani (1839)――Or. alexandrini=6.2.3.; Oz. orsini=1.6.3.(原記載の全長の測定値;測定単位不明)
Sawai et al. (2018)――Or. alexandrini=188.6cm; Oz. orsini=46.4cm(原記載の全長の帝国単位変換)
Britz (2022)――Or. alexandrini=317.9cm; Oz. orsini=78.1cm(原記載の全長の古イタリア計測単位変換)
Britz (2022)――Or. alexandrini=235.1cm; Oz. orsini=57.8cm(原記載の全長の古ボローニャ計測単位変換)
VS
Sawai et al. (2018)――Or. alexandriniタイプ標本=190.0cm; Oz. orsiniタイプ標本=59.7cm(ホロタイプの実測値)
→「原記載(古イタリア・古ボローニャ計測単位変換)の全長」と「Sawai et al. (2018)が実測したOr. alexandriniタイプ標本の全長」は、サイズがかけ離れているので、別個体!
・「原記載図」と「Sawai et al. (2018)が調査したOr. alexandriniタイプ標本」は4点の形態的差異(臀鰭の長さ、下顎の隆起具合、吻の突出具合、眼と口の位置関係)がある →別個体!
・原記載図は剥製を基にして描かれているため、生鮮時と形態が異なる可能性がある。
↓
・全長のサイズ違い、形態の違いから、「Sawai et al. (2018)が調査したOr. alexandriniタイプ標本」はタイプ標本ではなく、Or. alexandriniタイプ標本は現状、行方不明状態なので、Ranzani (1839)が記載したOr. alexandriniはspecies inquirenda (未確定種)とするのが妥当で、Yoshita et al. (2009)のA種に割り当てる学名はMola ramsayiにするのが適切である。
このBritz (2022)の疑義に応答する形で、Sawai and Nyegaard (2023)で反論を出しました。
・同時代の同じ雑誌に同じ著者によって出版された他の論文に測定単位が載っていないか調べた結果、Ranzani (1839)が使用していた測定単位は「1812〜1840年のパリで使われていた測定単位French pseudo-metric units」と判明し、この単位で変換すると――「Or. alexandrini=206.1cm; Oz. orsini=50.7cm」となり、「原記載の全長」と「Sawai et al. (2018)が実測したOr. alexandriniタイプ標本の全長」は人為的誤差の範囲内と考えられた。
→一方、魚類の計測方法は「2点間を直線的に計測する方法」と「2点間を魚体に沿って曲線的に計測する方法」があり、Ranzani (1839)がどちらの計測方法を使用していたか不明だったため、ボローニャ大学動物学博物館の職員に2パターンを計測してもらったところ、「2つの方法で計測値が大きくズレること」、「計測者によっても計測値が大きく変わること」が分かり、全長はタイプ標本判定に使えないと結論付けた。
・「原記載図」と「Sawai et al. (2018)が調査したOr. alexandriniタイプ標本」は4点の形態的差異に加えてさらに3点の形態的差異を指摘したが、それ以上の形態的共通点(9点)も指摘した。また、Ozodura orsiniも原記載図と実物標本との比較で、形態的差異や鰭条数の差異があったことから、Ranzani (1839)の原記載図は正確性に欠ける部分もあることを指摘した。また、ボローニャ大学動物学博物館のマンボウ科の標本は3つの剥製しかなく、1949年10月9日以降に各標本の場所は動かされていないこと、由来不明であるが「Sawai et al. (2018)が調査したOr. alexandriniタイプ標本」が最も原記載図に似ていることから、完全に原記載図と「Sawai et al. (2018)が調査したOr. alexandriniタイプ標本」は同一個体とは言い切れないがその可能性は非常に高いことを示唆した。
・Ranzani (1839)はOr. alexandriniタイプ標本を魚市場で買ってボローニャ大学動物学博物館に運んで解剖したことを記述しており、生鮮状態を見ていなかったとは考えにくく、生鮮時と剥製後の形態の違い(剥製過程で変形したなど)についての記述が無いことから、生鮮時の形態を反映したまま剥製化したものと考えられた。
・Or. alexandriniのタイプ標本が無く、記載図も無いと仮定した場合でも、Ranzani (1839)にある「fronte altissima prominenti(非常に高い額)」、「in parte postica fere ovatum(後部がほぼ楕円形)」の形態に関する記述と、どの測定単位変換でも全長162.5 cm以上になることより、ウシマンボウと同定できることから、国際動物命名規約(72.5.6.条、73.1.4 条、74.4 条、72.9 条)に基づいて、A種(ウシマンボウ)の学名はMola ramsayi (Giglioli, 1883)より古い、Mola alexandrini (Ranzani, 1839)を適用すべきであると反論した。
↓
しかし、より古いRanzani (1834)にもRanzani (1839)と同じようなウシマンボウの形態的特徴が記述されており、「fronte altissima prominente (非常に高い額)」、「posteriormente quasi ovato(後部がほぼ楕円形)」から種を同定できることにより、最終的にウシマンボウの学名はMola alexandrini (Ranzani, 1834)になると結論付けた。
2011年2月17日作成 2024年5月9日更新
Top