万研列伝 幼少期

(※フィクションとしてお読み下さい\(^O^)/)


 ――気付いた時には、マンボウが好きになっていた。

 筆者の記憶ある限りでは、1995年に発売された『星のカービィ2』に登場するマンボウをモチーフにしたキャラクター『カイン』が異常に好きだった。
 元々、小学生の頃から、友人の家で遊ぶよりも、身近にある原っぱや川で生物と触れ合う方が好きだった。
 図鑑はバイブル。暇があれば生物図鑑(特に魚)を眺めていたように思う。
 しかし、筆者は特に頭がいい訳ではなく、お魚博士と言われるほど種の分類に詳しい訳でもなく、どこにでもいるごく普通の自然少年だった。
 小学生までは図鑑を眺めるのが好きだった。

 しかし、中学生になって部活動を始めたその時から、魚のことなんてどうでもよくなっていた。
 中学、高校と日々、部活に明け暮れた。
 ごく普通の、生き物のことが他の人よりちょっと関心が高い青少年になっていた。

 転機は、大学入試を控えた高校三年生の時に訪れた。
 どこの大学に進学しようか悩んでいた時、大学案内のパンフレットにあった魚の写真を見て、天啓とも言える、幼少期の記憶がよみがえったのである。
 思い出して泣きそうになった。
 何故忘れていたのか……自分はマンボウにすごく興味を持っていたのだ。

 授業はまじめに受ける真人間だったため、成績はクラスの中でも上位。
 よって、無事、目的の大学へは推薦入試で入学することができた。

 しかし、大きな期待を抱いて入った大学のカリキュラムに失望した。
 期待し過ぎたのかもしれない。
 てっきり、毎日、生物の観察や実験を行うものと思って始まったキャンパスライフは、ただ講義に出席して板書する日々だった。

 時間はたくさんあった。
 マンボウのことに興味があるのなら、積極的に動いて情報を集めればよかった。
 しかし、特に何もしなかった。
 時間を持て余し、パソコンを手に入れたことで、ネットサーフィンが好きな堕落した日々を送っていた。


 人生とは『繰り返し』である。


 せっかく大学に入ったものの、ダラダラした日々を過ごしていたある時、再び転機が訪れる。
 大学4年生で行う卒業研究の選択を迫られていた大学3年生の時だった。
 就職活動は全くやる気がなく、自分が何をしたいのかもわからない。
 未来が視えない中で、もう一度、自らの心に問いかけた。
 そして――思い出した。

 マンボウの研究がしたい。

 それは単に愛でるのではなく、生態の多くが謎に包まれているこの魚の真の姿を自らの手で知りたいという衝動だった。
 『初恋の人の夢は死ぬまで視る』と言うように、繰り返し過去の自分を思い出し、自らがしなければならないことをついに確信した瞬間だった。
 人が抱えるトラウマの多くは、幼少期に植え付けられた記憶によるところが多いと聞く。
 また、世の中で活躍する天才や奇人変人も、その人を特定の方向に導く要因となった出来事は、幼少期に受けた影響が大きいという。
 もしかしたら、自分も例外なくこれらに当てはまるのかもしれない。


 そして、ただのマンボウ好きだった少年は、いつしか狂気的なマンボウ研究者へと変貌することになる――

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 2012年1月19日作成 2012年7月25日更新


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